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 閉塞感が漂う関西3空港問題。前進は可能なのか。道筋を探る。=敬称略
【きしむ空港】第2部・関西3空港(1)あいまい結論 大阪と兵庫、亀裂生んだ懇談会 <MSN産経 2010/04/13>を添削

 「はっきりと文章で『伊丹、神戸の存廃問題を共有する』とすべきだ」(大阪府知事 橋下徹)
 「だめ。存廃問題を特定の空港に限定されるのなら、私が降りますよ」(兵庫県知事 井戸敏三)

 2010/04/12、大阪・中之島。関西3空港懇談会の会場で、両者は関西、大阪伊丹、神戸の3空港の長期的課題をめぐり、激しく対立した。

 会議では、長期的に「空港存廃問題を含めて、その課題を全員で共有する」という合意案の一文をめぐり、対象の空港名を入れるかどうかが争点となった。妥協点を模索する周囲。だが、2人の主張はどこまでも相いれない。結局出された結論は、2009/12の前回会議でも合意した、具体像のない3空港の一元管理を再確認しただけで、最大の焦点である大阪伊丹の存廃は事実上棚上げされた。

 橋下の考えの根底には、関空の浮揚に向けて「地元も覚悟を示す必要がある」との思いがある。橋下は、JR東海が2025年の開業を目指すリニア中央新幹線の整備に伴い、需要に影響を受ける大阪伊丹の廃港を主張。
 対して井戸は、リニア整備の不透明性をとらえ、「どういう計画かわからないようなものを前提に、伊丹廃港を論ずるのは荒唐無稽だ」と反発していた。

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 大阪伊丹空港の騒音問題をきっかけに建設された関空。だが、大阪伊丹は存続し、神戸も開港した。関空は巨額の負債で年227億円にのぼる利払いを抱え、国から補給金を受ける一方、国内線は大阪伊丹の存在がネックとなり、低迷を続ける。関空の国内線就航は現在わずか7都市で、ピーク時の約2割に落ち込んでいる。

 3空港全体の需要も下降気味だ。国内線の旅客数は、関空と大阪伊丹の2空港だった2000年の2396万人に対し、2009年度は約15%減の2044万人にとどまっている。

 「狭い地域に3つも空港が必要なのか」。外部からの風当たりは強く、本来国が決めた共存が地域エゴととらえられる風潮もある。懇談会では、決着につながる地元総意の抜本策が導き出されるはずだった。

 2010/02以降、4回にわたって開かれた事務レベルの幹事会。3空港のあり方を考えるもととなる需要予測の検討を続けてきた。異変があったのは、03/18に開かれた3回目の会合。懇談会事務局の関西経済連合会が示したデータの最終年が、2030年から2025年に変わっていた。その前の会合で示された数値では、大阪伊丹の旅客数が2030年には大幅に落ち込むとされ、兵庫県側が反発。最終年の変更は、リニアの影響を加味しないことを意味していた。

 「これはおかしい」。食い下がる大阪府側などに、関経連側は「(明確な)開業時期がわからないのに、予測には織り込めない」と主張。その3日前、懇談会座長(関経連会長)の下妻博が「伊丹をどうするか、それは今の話ではないよね」と発言していた。

 潮目の変化。大阪府幹部は憤りを隠さない。「需要の長期予測をして、それに基づいて将来の3空港のあり方を議論するのが懇談会のミッションだったはず。リニア開通後のことをテーブルにすら載せないというのはどういうことか」

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 懇談会唯一の成果となった3空港の一元管理も、中央レベルでは前段階から評価されていない。国土交通相の前原誠司は「抜本的な解決にならない」と否定的な見解を示し、国交省成長戦略会議座長(武田薬品工業社長)の長谷川閑史も「経営の透明性、結果責任があいまいになる」と述べている。

 大阪伊丹空港の存廃をめぐり、関係者間に亀裂を生んだ懇談会。インパクトに欠ける結論が残り、中央に突きつける有効なカードは得られなかった。会議後、橋下は吐き捨てた。「(懇談会の結論は)銀玉鉄砲ぐらいじゃないですか。これではハトも仕留められない」

◇◇

 閉塞感が漂う関西3空港問題。前進は可能なのか。道筋を探る。

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【きしむ空港】第2部・関西3空港(2)関空の財務改善 国への異なるアプローチ <MSN産経 2010/04/13>を添削

 関西3空港問題で、大阪伊丹空港の存廃をめぐり、これまでたびたびバトルを繰り広げてきた大阪府知事の橋下徹と兵庫県知事の井戸敏三。意見の相違点はどこにあるのか。

 関西国際空港は、国家インフラの国際拠点空港でありながら、中曽根政権下の行政改革に引っかかり、成田、羽田と違い、地元自治体や民間も出資する株式会社方式で整備された。それ故、現在も約1兆1000億円という途方もない額の有利子負債を1企業である関空会社が背負い、年200億円超の利払いが慢性的に経営を圧迫。着陸料が高止まりし、内外の航空会社に不人気という構図だ。

 国際線の着陸料を比較すると、400人乗りクラスの機材で、関空の約58万円に対し、成田、中部は約46万円、韓国・仁川(インチヨン)、シンガポール・チャンギは約15万円。競争にすらならない額の開きだ。

 関空の財務構造の抜本改善、大阪伊丹空港の当面のフル活用。この2点では橋下と井戸の意見は重なり合う。だが、そこへ至る道筋で、主張は真っ向から異なる。国の動きへの危機感と、原則的な責任論−。決定的な政治的スタンスの違いだ。

 対立は知事同士だけにとどまらない。兵庫県議会は2010/03、大阪伊丹空港の存続を求める決議案を可決。これに対し、翌日には大阪府議会が「中長期的に(大阪伊丹空港の)廃港を考える」とする決議案を可決し、議会を巻き込んだ形に発展した。「両議会が正反対の決議をしたことで、国にまた『地元はバラバラ』という言質を与えてしまわないか」。大阪府幹部はそう心配する。

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 両知事の先の見えない対立軸の末、関西3空港の一元管理で唯一折り合ったのが、関西3空港懇談会で出されたとりまとめだった。

 「玉虫色ではないかという感想もあるかと思うが、現在の関西として、われわれが合意できる最大の意思表示だと考えている」。座長で関西経済連合会会長の下妻博は、2010/04/12の会議後の記者会見でそう語ったが、大阪伊丹空港の存廃に踏み込まない内容は、苦肉の策という印象が拭えない。

 国から関空への利子補給金は、2009年の政府行政刷新会議の事業仕分けで「凍結」とされた。年末の予算査定では、国土交通省の概算要求額の5割弱となる75億円がかろうじて認められたが、それすら執行には、関空の財務改善の抜本的解決策を示すという条件がついている。

 妥協の産物として生まれた「関西の総意」。国交省の成長戦略会議は、2010/06までに関西3空港の方向性について一定の結論を提示する予定だが、成長戦略会議の委員で慶応大教授の中条潮は、厳しく見つめている。「関西3空港一元化は、何を生み出すのかよくわからない。言葉の響きとしていいなというのに引っ張られているだけなのかもしれない。『国は金を出してください』と言っているだけでは、今までと何も変わらない」

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【きしむ空港】第2部・関西3空港(3)遠い関空「迷惑施設」が抱える宿命 <MSN産経 2010/04/14>を添削

 2010/04/14、成田空港近く。山本寛斎がデザインした白と藍色の真新しい車体の電車が、姿を現した。京成電鉄の「成田スカイアクセス」新車両の試運転。2010/07/17の運行開始予定で、これまで1時間近くかかっていた東京・日暮里と成田空港が36分で結ばれることになり、課題だった都心と成田の間のアクセスが格段に向上する。

 空港は、人々の利便性に大きく寄与する一方、周辺住民にとってはすさまじい騒音をまき散らす迷惑施設でもある。都市部にある大阪伊丹空港も、かつて最高裁で「欠陥空港」と認定され、運用には時間的、総量的制約がかけられている。

 関西国際空港は、大阪・キタの都心から南方へ約50km。さらに、陸地から5km離れた海上に建設された。都市部からの遠さは、大阪伊丹の教訓をもとに公害に最大限配慮したためだが、一方で利用離れを招く大きな要因となっている。

 「関空までのアクセスが改善されたら、もう大阪伊丹の必要性ってなくなるはずなんです。東京へは大阪伊丹でなく関空から行けばいい。その関空が遠いから今、困難になっている」

 大阪府知事の橋下徹は、将来的な伊丹廃港の条件として、関空へのアクセス向上の必要性を繰り返し唱える。橋下は「関空アクセスの改善が一番のカギになっている」ととらえ、「改善できるのは国土交通相のかけ声一つ。そこさえやってもらったら全部話が通じる」と訴える。

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 「関空は遠い」というイメージは、大阪府南部に住む人々を除く大多数の関西人が持つ固定観念だ。国交省大阪航空局の調査によると、公共交通機関で大阪伊丹空港まで1時間以内で移動できる京阪神の人口は1500万人、対して関空は約400万人に落ち込む。

 関空につながる空港バスの所要時間(通常時)で比較すると、ビジネスの中心地である大阪・キタのJR大阪駅前からは約50分、京都駅前からは85分、神戸・三宮からは約65分かかる。大阪伊丹空港へのアクセスと比べると不便さが際立つ。

 橋下が想定する新アクセスは、大阪・キタと関空を結ぶ「関空リニア」の建設、もしくは、関空への鉄道路線の起点となるミナミとキタを結ぶ「なにわ筋線」整備の2パターンだ。大阪府の構想によると、関空リニアが開通すれば、キタから関空へはわずか7分、なにわ筋線でも30分台で行くことが可能だ。

 だが、関空リニアの建設には、大阪府の試算でも5000億円、国試算では、関空が抱える有利子負債額を超える1兆5000億円かかるという見方もある。2004年の近畿地方交通審議会答申で「中長期的に望まれる新路線」と位置づけられたなにわ筋線も、整備には2000億〜4000億円かかるとみられ、実現性は不透明だ。

 ただ、現状でみれば、首都圏から成田空港へのアクセスも、東京駅からはJRの特急で約55分、横浜駅前からはバスで約85分かかっており、ことさら関西圏だけが不便というわけではない。都市部から空港への遠さは、迷惑施設としての空港が抱える宿命ともいえる。

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 もっとも、実情として関空への不便さが利用者に嫌われているのは、厳然たる事実だ。

 「大阪伊丹がなくなったら困る」と話すのは、東京都内のメーカーに勤務する女性会社員(35)。週2日ほど、営業や会議で大阪・キタの支店に駆けつけるが、大阪には当日入りすることが大半で「新幹線ではなく空路が欠かせない」と話す。これまで関空を利用したこともあったが、「支店まで時間がかかるし、空港から大阪市内までの交通費も高い」。最近は必ず大阪伊丹便を利用している。

 もともと大阪伊丹の廃港を前提として建設された関空。その大阪伊丹の存在が、関空離れを招いている現状は、皮肉といわざるを得ない。

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【きしむ空港】第2部・関西3空港(4)11市協「地元」衰退に強い危機感 <MSN産経 2010/04/15>を添削

 2010/04/05、大阪府知事の橋下徹と、大阪伊丹空港のお膝元、大阪府豊中市長の浅利敬一郎が、大阪府庁で膝をつき合わせた。

 「中長期的な大阪伊丹の将来を考える場に、豊中市も入ってもらいたい」
 「10年経てば社会環境は変わる。将来的にどうするかの議論はする」

 橋下の伊丹廃港論をきっかけに、隙間風が吹いていた両者。議論の入口に立つことでは一致し、握手を交わした。「現時点で廃港はまったく考えていないが、(大阪伊丹空港のある)北摂地域全体で議論しましょうということになれば参加させてもらう」と浅利。橋下は「考えるスタートが切れたということで、非常にうれしい」と話した。

 高度成長期のさなかの1964(昭和39)/06にジェット機が就航後、騒音問題が激化した大阪伊丹空港。1964/10に大阪国際空港騒音対策協議会が発足した。大阪府と兵庫県にまたがる11市が加盟していることから「11市協」と呼ばれる。

 「静かな空を返せ」。住民らによる激しい運動が巻き起こり、航空審議会が1974/08に出した答申には「関西国際空港は、大阪国際空港の廃止を前提として」と記された。ただ、旧運輸省は答申の直後に「この表現は直ちに政府に廃止を迫るものではない」との大臣説明資料も出している。

 11市協は長年にわたり、歩調を合わせて環境対策の要望などを行ってきたが、関空開港4年前の1990年、旧運輸省との間で、大阪伊丹空港の存続協定を締結。関空だけでは関西の航空需要が賄えなくなるという懸念があった国側と、税収や雇用などで大阪伊丹空港に深く依存している地元の思いが重なった結果だった。

 そして2005年、11市協は「周辺都市対策協議会」と名称を変更。文字通り、騒音対策の看板を外した。

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 2010/03/25、11市協メンバー2市の議会で、全く正反対の決議が可決された。豊中市議会は「空港の存続を前提に、より積極的に活性化に取り組む」とし、北に隣接する箕面市議会は「関空をハブ拠点化し、中長期的に大阪伊丹を廃止すること」を求めていた。

 11市協初の大阪伊丹廃港決議。閉会後、決議に賛成した箕面市議は「関西圏全体の経済発展を考えなくてはいけない」と語った。

 決議を受け、11市協会長で伊丹市長の藤原保幸は、箕面市長の倉田哲郎に電話をかけ、真意をただした。藤原によると、倉田は「関西3空港の一体運営で全体のパイを伸ばす必要性がある」と、大阪伊丹廃港とは対極の考えを伝えた。

 両市議会での議決は、一般的には11市協の足並みの乱れととらえられた。だが、藤原は「倉田市長は廃止とは言っていない。もし自治体として仮に廃止を求めるのなら、11市協から出ていく話だ。足並みの乱れはない」と強調する。

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 大阪伊丹空港周辺には、1967年以降、累計で約6700億円の環境対策費が国から投じられ、防音工事や各家庭へのエアコン設置などが進められてきた。
 他方、低騒音機の普及に伴い、最近では1日370回の発着枠のうち200回に制限されているジェット機枠の撤廃や、関空開港以降なくなった国際線の復活も取りざたされる。

 大阪伊丹の旅客数は、ピーク時の2004年の1948万人に対し、2009年は26%減の1437万人。関西経済連合会による需要予測では、2025年の開業を目指すリニア中央新幹線の整備後、経済情勢が悪ければ930万人程度まで落ち込むとされる。

 豊中市によると、大阪伊丹空港による豊中市への経済効果(試算値)は約960億円。空港で働く人は2008/03末で約8900人にのぼる。

 大阪伊丹空港存続論には、空港を失い、街が衰退することへの強い危機感がにじむ。豊中市商店会連合会長の阪上昇一がかみしめるように話す。「国際線がなくなり、空港周辺からは100を超える事業者が移転した。私たちは明日食べてなんぼの世界に生きている。存続を前提にわれわれが商売の計画を立てられるよう、国、府、市に要望したい」
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