鉄路を守るプロ集団 JR神戸線・神戸保線区に1日密着 <2020/02/11 05:30 神戸新聞NEXT>を編集
通勤通学から物流まで、日々の暮らしを支える鉄道。その線路の安全を守る部署が「保線区」だ。そこには、安全と乗り心地を追求し、ミリ単位の職人技に目を光らせるプロ集団がいる。大動脈、JR神戸線の尼崎~塩屋間を主に管轄する神戸保線区(神戸市兵庫区駅南通5)の1日に密着した。
■08:30 点呼
「福知山線列車事故で亡くなられた方に哀悼の意をささげ、黙祷」。勤務を前に毎朝、区長の山本康三(57)を中心に、保線区の職員14人が安全を誓う。
黙祷に続き、当日の工事内容を確認する。「昨日の人身事故の影響でマルタイ(大型機械)での作業が中止になりました」と報告があった。列車の遅れや人身事故の発生で予定が大幅に崩れることも。緊張感を漂わせ、長い1日が始まった。
保線区の主な仕事は、線路を点検し、工事の日程を決め修繕すること。検査は12種類あり、中にはひたすら線路を歩く作業もある。
■日中 検査と会議
現場歴20年の係長、國末武司(39)と同僚の小倉孝(28)が快速電車に乗り込む。明石駅から兵庫駅まで、専用の機械で列車の揺れを測定し、線路の状態を調べる。列車の重みでレールは少しずつ沈みこみ、表面が削れる。わずかな誤差でも乗り心地に影響し、放置すれば最悪の場合、脱線につながることもある。小さな変化をつかみ、基準値を超えた箇所は線路のバラストを突き固めるなどして修正する。
昼食後は来年度の工事に関する会議が開かれた。國末ら5人が測定結果や映像を見比べ、優先して工事すべき場所を検討した。
■23:00 打ち合わせ
深夜から未明までは、神戸駅構内にある分岐器の手入れ。工事ができるのは、終電から始発までの約3時間半に限られる。この時間も走行する貨物列車や翌朝の電車のダイヤに合わせ、作業の工程管理は1分刻みだ。終了の遅れは許されない。「時間厳守。決して無理な作業はしないこと」。現場責任者の國末の声に力がこもる。
作業で使う器具には重さが30kgほどある機械も。「腰はやられますよ。こればかりは仕方ないです」と國末は苦笑いする。
■01:21 作業開始
最終電車が通りすぎた。作業が始まる。
「ガシャ、ガシャ」。現場に土の匂いが立ちこめる。シャベルでバラストをかき出し、ジャッキを使って列車の振動でずれた枕木の位置を微調整する。バラストを元に戻し、突き固める。仕上げはレールの上に糸を張り、目線をレールの高さに合わせ、ゆがんだ部分がないかのチェックだ。
「ゴゴゴゴゴ」。時折轟音が響く。神戸線は線路が上下2本ずつあるため、作業をしない線路を貨物列車が頻繁に行き交う。JR西日本は終電時刻を早める計画を明らかにした。國末は「人員が限られる中、作業に充てられる時間が増えるのは大きい」と受け止める。
■04:30 夜明け前
作業を終え、事務所に戻る。気温は5度を下回っていた。國末は計画書と検査結果を整理してやっと家路につける。「今日は燃えるゴミの日、捨てに行かないと」と笑う。帰って愛娘(2)を抱きしめたい、とも。「まだ寝とるでしょうけど」と笑みがこぼれた。
鉄路を守るのは「人の力」-。プロ意識と仲間を思いやる高い組織力に胸を打たれた。
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