JR西日本、明石の新幹線車両基地の整備を断念「コロナ禍前の利用水準に戻らず」 明石市に伝達
<神戸新聞NEXT 2024/11/16 05:30>
JR西日本が明石市の神戸線大久保-魚住間で計画していた新幹線車両基地について、整備を断念したことが2024/11/15、同社や明石市への取材で分かった。山陽新幹線の利用状況がコロナ禍前の水準まで回復していないことなどを踏まえた判断という。
計画が表面化したのは2019/11。リニア中央新幹線の大阪延伸で、山陽新幹線の需要拡大を見込み、2037年までに約30haの基地を整備する構想だった。在来線の新駅や宅地、商業地の開発も検討していた。
JR西日本は、2020/03に計画案を明石市に示す予定だったが、コロナ禍で延期に。明石市は2024/05、現状と今後の見通しを尋ねる文書を同社に提出。2024/11/06付でJR側から中止を伝えられたという。
基地の計画が浮上した地域は近郊農業の優良地で、明石市が生産性の向上を目指し、大規模な農業用水のパイプライン整備を予定していたが、計画を受けて凍結していた。明石市政策局プロジェクト部長の山口泰寛は、今後について「住民にしっかり説明し、地元の声を聞いて方向性を検討する」とした。
JR西日本は「早急な車両基地の整備が必要ではないと判断した」としている。
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明石の新幹線車両基地、整備断念に農家ら「振り回された」 宙に浮くパイプライン計画
2024/12/30 05:30
JR西日本が、神戸線大久保-魚住間での新幹線車両基地整備計画を断念した。計画が判明したのは2019年。その影響で予定地の明石市魚住町の農地では、農業効率化のための大規模なパイプライン整備が着手直前で凍結された。この5年で農家の高齢化や水路の老朽化が進み、関係者からは「計画に振り回された」とため息が漏れる。
「パイプラインはすぐに整備できるのか」「高齢者は夏に水を張るのも大変なんや」。先月下旬、同町の柳井集落で開かれた会合で、農家から切実な声が上がった。本来は農業の地域計画策定に向けた話し合いの場だったが、同席した市職員らに対し、計画中止を受けた質問や要望が相次いだ。「農地をやめて市街化できないか」という意見もあった。
■7年がかり
今回の計画の対象となったのは、同集落と金ケ崎、長坂寺の魚住町東部3集落にまたがる農地。面積は計65ヘクタールに上り、農地からの転用を原則禁じる市の「農用地区域」に指定されている。市などによると、農地の権利者は計約200人と多く、自身で耕作する人もいれば、貸し出す人もいるなど状況はさまざまだ。
地元でパイプライン整備の議論が始まったのは、12年。農地整備から20年以上が経過し、農家の高齢化も加速する中で、将来を見据えてのことだった。
既存の水路の下に総延長11・7キロの塩ビ管を埋設することで、田畑への給水の利便性を高める。農家の水路管理の負担をなくすこともできるため、持続可能な農業には不可欠な事業だった。
一方で、後継者が不足する中、パイプライン整備をして農業を続けることに抵抗感を持つ権利者もいたという。当時、議論のまとめ役として中心的な役割を担った柳井集落の尾西輝雄さん(79)は「当時から市街化区域への編入を望む声があり、意見をまとめるのも一筋縄ではいかなかった」と振り返る。
全ての権利者の同意を得られたのは、議論開始から約7年がたった19年だった。国の補助事業の採択申請が完了し、同年度中にも着手を予定していたところで、車両基地の計画が浮上した。
■「時間がない」
それから5年。農家の高齢化はさらに進み、老朽化した水路の水漏れが深刻な問題となるなど、農家らは「時間の猶予はない」と危機感を募らせる。尾西さんも「パイプライン整備が止まったことが農家にとってどれだけきついことか、考えてもらわなあかん」と語気を強める。
計画判明後、農家たちの中では、車両基地として活用されることに期待も高まっていた。他集落の農会幹部の男性は、こう強調する。「車両基地計画の最大の罪は、耕作者の意識を変えてしまったことだ。パイプラインの合意形成では、『この土地は一生、農用地として守っていかないといけない』と説得されて同意した人もいたのに」「農地を守るためにはパイプラインの整備以外にないが、開発の可能性が示された今、同じようにいくのだろうか」と懸念する。その上で「担い手が少なくなっていく中、農業生産法人を誘致するなど、市には次の政策を早く考えてもらいたい」と話す。
市によると、今後、パイプライン整備に対する国の補助を受けるには、現在の農家数や将来の展望、整備による経済効果など詳細な計画を示さなければならない。凍結前の計画からは5年が経過しており、「同じものでは採択されないだろう」と市担当者。権利者らからは再度同意を得る必要がある。
【JR西日本の新幹線車両基地整備計画の経緯】2019年11月、リニア中央新幹線の大阪延伸による山陽新幹線の需要増を見据え、JR西日本が神戸線大久保-魚住間で2037年までに車両基地の整備を検討していることが明らかになった。JR西は計画案を20年3月までに明石市に示す予定だったが新型コロナ禍で延期に。今年11月、山陽新幹線の利用状況がコロナ禍前の水準に回復していないことなどを踏まえ、JR西が市へ計画の中止を伝えた。
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