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逆境が生んだ映画~粟生線を守れ~

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逆境が生んだ映画~粟生線を守れ~(1)三木駅火災 <2019/08/23 05:30神戸新聞NEXT>を編集

 サイレンの音がけたたましく響き、報道ヘリコプターが上空を旋回する。あの日、普段は閑静な神戸電鉄三木駅が騒然としていた。見慣れた下り駅舎は黒煙を上げながら赤々とした炎に包まれ、激しく燃え盛る。規制線手前まで大勢の市民が詰め掛け、警察官が「下がって」と叫んでいた。消防署員が慌ただしく放水したが、火の勢いはなかなか納まらなかった。

 2018/03/04夜、隣接する木造2階建て民家から出火し駅舎に延焼。約5時間後に火は消えたが、駅舎を含む3棟延べ約630m2を全焼し、火元の民家の男性(当時68)が亡くなった。築80年になる木造平屋の駅舎は黒焦げの骨組みがあらわになり、内部はがれきの山と化した。

 「信じられへん。うそやろ」。つい最近まで三木市の実家から4年間、神鉄粟生線で大学に通ってきた高井佑美(24)は、無料通信アプリLINEで知人から一報を受け、強い衝撃を受けた。駅に近い三木高校に通う江川裕樹(16)も、テレビで炎上する駅舎の映像を見た。実感が湧かない中で、いても立ってもいられない気持ちになった。学校でもその話題で持ちきりに。この火事は後に2人の運命を変えることになる。

 一方、2011年から「粟生線の未来を考える市民の会」代表として神鉄粟生線活性化に動いてきた山本篤(50、医師)は危機感を募らせた。「電車が止まれば乗客離れが進み、廃線が近づく」と思ったからだ。

 火災直後から、フェイスブック上には「悲しい」「本当に残念」「粟生線を廃止にしないで」といった書き込みが相次いだ。電車は奇跡的に翌朝から上りホームで運行を再開。三木駅の再整備に向け、支援金を集める動きもあった。

 これまで車内の仮装コンテストなどのイベントや、神鉄との協議などに手を尽くしてきたが、これほどの反響はなかった。「周りは無関心だと思っていたが、違った。火事で『鉄道がなくなったら』と現実的に想像できたのでは」と語る。

 災難によってかえって廃線危機の鉄道に注目が集まることにもなった。山本は逆転の発想で、粟生線の存続を推し進めるため一念発起する。「神戸電鉄の『神』に掛けて、ローカル線の守り神が現れるような映画を三木でつくりたい」。以前から温めていた鉄道映画の構想だった。実現化への鍵を握る、ある旧友に連絡を取った。

     ◇      

 神戸電鉄粟生線の実利用者数は1992年度の1846万人(推計)をピークに、人口減少や車への移行で2018年度は半数を大きく割る794万人になった。存続が危ぶまれる中、三木駅の火災は起きた。その逆境は、2020年春公開予定の映画「神さま、わたしの鉄道をまもって。~三木の紅龍伝説~」の製作を後押しする。壮大な計画に挑む人々のドラマをたどる。

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逆境が生んだ映画~粟生線を守れ~(2)旧友2人の絆 <2019/8/24 05:30神戸新聞NEXT>を編集

 神戸電鉄粟生線三木駅下り駅舎の火災からわずか6日後。山本篤は、一つ上の幼なじみに、フェイスブックを通じてメッセージを送った。

 「粟生線を再生させるため、竜が鉄道の守り神として君臨する話をつくりたい。神鉄って神話が似合うし、(赤い車体が)いかにも『紅龍』のようでしょ」

 映画化は、幼少期から粟生線を利用し、今も緑が丘駅前で医院を営む山本ならではの提案だった。

 メッセージの送り先は、明石市で映画の自主製作に関わる小西イサオ(51)。2人はかつて神戸市西区押部谷地域の同じ団地に住み、中学校では共に美術部に所属していた。30年以上たつ今も時々会って話をする仲だ。この縁が、計画実現への大きな一歩となった。

 「面白そうやな」。小西は直感的にそう感じた。映画好きの本能に導かれ「できることなら何でもやりますよ」と返信した。山本が大変な努力で医師になったことや、能や三味線をたしなむ一面も見てきた。何より少年時代からの信頼関係があった。

 小西はアニメ界の巨匠宮崎駿の作品に引かれ、映画監督に憧れた。鈴蘭台高校(神戸市北区)時代には、文化祭で8ミリフィルムのカメラを使い短編アニメを作ったほどだ。京都産業大学を経てケーブルテレビ局に入社。転職した今も、映画の現場が好きで、ずっと自主製作に関わってきた。

 2018年春は久々の監督作品として、少女の心の成長を描く映画の撮影を終えたばかり。製作を依頼されたのは今回が初めてで、高校時代通学で利用した粟生線が舞台だ。「ずっとお世話になった電車のために力になりたい」。迷いはなかった。

 2018/04/10、2人は三木市緑が丘地域の串カツ屋で再会した。山本は「説教くさくなく、娯楽にしたい。市民を巻き込んで、ローカル線を盛り上げる」と訴えた。一致した理想のイメージは、昭和後期にヒットした邦画「時をかける少女」。透明感や幻想性があり、切ない青春映画で、そういう要素がほしかった。

 三木駅の再建に向けて2年先を見越し、進展は早かった。2018/06、小西の知人で脚本家の広富いちみ(京都市)を加えた3人で大阪に集まった。テレビ電話を含む数回の話し合いを重ね、構成は喜劇の要素を外したり、主人公を変えたり二転三転。竜を登場させるにはCGを使わないといけないなど技術的な壁もあった。最終的に、竜神の鉄像を祭る神社の宮司一族は、超能力が使えるといったストーリーに仕立てた。

 ようやく形になった年明け、出演者を決めるオーディションにこぎ着けた。

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逆境が生んだ映画~粟生線を守れ~(3)地元役者の挑戦 <2019/8/26 05:30神戸新聞NEXT>を編集

 「電車がなくなったら俺も死ぬ!」
 「ばかなこと言わないで!」

 せりふに熱がこもった。

 2019/01下旬、三木市と神戸・元町で、神戸電鉄粟生線を舞台にした映画のオーディションが行われた。応募者は基本2人1組で映画の一場面を演技。監督の小西イサオ(51)、総合プロデューサーの山本篤(50)ら審査員4人が真剣なまなざしを向けた。

 2018/11から専用サイトやfacebookで募集。三木や近隣、東京など全国各地から約100人が応募し、予定を早めて締め切った。その中に、特別な思いを持って主演の女子高生役に挑んだ役者がいた。

 三木市出身で、役者の道を歩み始めて間もない高井佑美(24)。甲南大時代に通学で乗った粟生線が減便され、廃線の危機を肌で感じた。「存続してくれたことで無事に卒業できた。今度は粟生線に恩返しがしたい。自分に合う役がもらえれば」と思っていた。

 当日、指示されたのは冒頭の場面。三木駅で火災が発生し、現場へ近づこうとする幼なじみの男子役を、高井がいさめる。感情を込めつつ、精いっぱい演技した。特技のPRでは、クラリネットを演奏。「力を出し切ることはできた」と感じていた。

 会場には、演技経験のない三木高校の江川裕樹(16)の姿もあった。音楽部でベースを担い、人気バンドのカバー曲を演奏する今どきの若者だ。

 三木駅火災の場面は、応募する動機にもなった出来事。「何かしないと」との思いに駆られ、駅に行こうとする姿は、あの時、ざわついた自分の気持ちと重なる部分があった。

 オーディションが終わり、監督の小西は主役に別の20代女優を推すなど審査員の意見は分かれた。ところが後日、小西が映像を確認して考えが変わった。改めて見ると、高井の豊かな表情や凛とした姿が目を引き「本当の気持ちが入った芝居ができる」と確信したのだ。全員の意見は高井で一致。江川も飾り気がなく、伸びしろを予感させる演技が審査員の心をつかんだ。

 吉報を受けた高井は主演はもちろん、映画の出演も初めて。「喜びと同時に重みを感じた。二つの感情が五分五分」と明かす。準主役の座を射止めた江川も「頭が真っ白になった」。粟生線の各駅には高井と共に自身が写ったポスターが貼られ、同級生らから応援と心配の声を受けたという。

 出演者16人の顔ぶれは、ほとんどが地元住民か、経験の少ない役者。これこそ「市民を巻き込む」と山本が掲げた理想の形だった。だが、映画化の実現にはまだ難題が残されていた。

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逆境が生んだ映画~粟生線を守れ~(4)広がる支援の輪 <2019/8/27 05:30神戸新聞NEXT>を編集

 大勢の出演者やスタッフを抱え、半年以上にわたって撮影を続ける映画づくりには、まとまった資金が必要だった。長く自主製作に関わる監督の小西イサオ(51)は出演者を含め、身を削って負担してきた。だが、今回の神戸電鉄粟生線を舞台にした映画では「出演者にお礼をしたい」という気持ちがあった。

 2018/03、映画の総合プロデューサー山本篤(50)から最初に話を持ち掛けられ、快諾した小西はその場で思いを伝えた。大掛かりなロケに当たり、出演料はわずかでも、交通費や傷害保険代、衣装代などは確保しておきたかった。

 問題は資金集めの方法だった。山本は、代表を務める「粟生線の未来を考える市民の会」が2018/06に開いた講演会を参考にした。経営危機に陥った千葉県の銚子電鉄を救う取り組みについて、当時大学生の和泉大介が講演。インターネットで資金を募る「クラウドファンディング」を紹介した。現金を含め約500万円が集まったといい、和泉は「共感者を増やし、愛と熱量を持って取り組むことが鍵」と訴えた。

 話を聞いた山本は手応えを感じた。三木駅の火災後、再整備への支援金が多く寄せられていたからだ。当初掲げた、多くの人が関わる映画づくりにもつながるため、この手法を選んだ。

 登録したサイトでは4カ月間で100万円を集める条件を設定した。目標額に届かなければ、手数料が倍増する。工夫を凝らしたのは、協力者への「リターン」だった。金額が高いほど返礼の種類を増やす形が多い中、山本らは額に見合った1種類を指定。例えば1万円の3枠は映画の出演権で、高校教諭役が主人公に進路希望を早く出すように話す場面などを設けた。ユニークな返礼は市民らの心を動かし、すぐに定員に達した。

 募金を始めた後も、気を緩めなかった。小西は専用サイトに毎日のように映画製作の動向を投稿。粟生線のブログを担当する同会の長尾憲吾(45)=三木市=を広報担当に迎え、精力的に宣伝した。主役の高井佑美(24)らはラジオやケーブルテレビに計4度出演。2019/05には、ナメラ商店街(三木市本町2)のイベントで同会が出店し、出演者が協力を呼び掛けた。

 「100万円という大きな目標額を達成しました」

 2019/05下旬、最後の追い込みと位置付けていた映画のPRイベントで、小西は、集まった市民や鉄道ファンら約60人を前に発表した。期限まで2週間を残し、目標額を突破。最終的に、256人から127万3001円を集めた。

 関係者が胸をなで下ろしたのもつかの間。2019/04に始まった撮影は、過酷な夏場にさしかかっていた。

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逆境が生んだ映画~粟生線を守れ~(5)撮影現場の苦悩 <2019/08/28 05:30神戸新聞NEXT>を編集

 旧市街の路地にセミの鳴き声が絶え間なく響く。2019/08/04夕刻、主に兵庫県三木市内で重ねてきた映画のロケは、完成までちょうど半分の15回目を迎えた。

 汗が噴き出す暑さの中、駄菓子屋の前で、幼なじみの男子生徒と立ち尽くすヒロイン。店が閉まっているのを見て、「もうちょっと早い時間に来れば良かったね」と言った。

 ヒロインは神社の宮司の一人娘。幼い頃から地元の鉄道が好きで、夢は運転士。だが、神社の後を継ぐ宿命があり、父親に反発する。ある日、三木駅で起きた火災で、隠れた能力を発揮する-という筋書きだ。

 監督の小西イサオ(51)は、カメラの前で鋭い視線を注ぐ。立ち位置、表情、声の抑揚といった細部にこだわり、短いカットを繰り返し撮る。出演者らへの口ぶりは穏やかだが、作品に対する妥協はなかった。

 IT関連会社に勤める小西は休日を返上して現場へ出る。出演者の日程調整にも苦労し「1人がだめになると総勢50人以上の予定を確認し直さないといけない」。許可申請や当日の運営サポートは、20人余りのボランティアを頼った。

 夏場の難敵は暑さだ。日中は気温30度を優に超えるため、午前と夕方に分けて数時間を撮影した。熱中症も心配で、合間にはスタッフが冷えた飲料水を皆に配った。

 主演の高井佑美(24)は劇団に入って1年余りで、舞台経験は1度だけ。夏やせする体質で、習慣の筋力トレーニングやダンスは控え、ビタミンなど栄養補給をしながら参加した。

 役作りにも苦心した。6歳下の役で、ファッション雑誌「セブンティーン」を読み、制服の着こなしやメークなど高校時代の感覚も思い出しながら演じた。せりふは丸暗記ではなく「前後の流れで、その時の心情が自然に出るように」と心掛ける。

 「自分に務まるか不安だった」と言うのは、幼なじみ役の三木高校2年江川裕樹(16)。演技初挑戦で、事前に2日間に渡って、マンツーマンの演技指導を受けて臨んだ。今は「自分の気持ちを伝えるために必死に演じる」と意気込む。

 ロケには多くの市民らがエキストラとして加わった。三木駅の火災で粟生線が運休となりバスで振り替え輸送される場面。2019/07/20に神鉄志染駅と恵比須駅で神鉄バスの車両を借り、約30人が乗客役を務めた。協力的な姿勢や喜ぶ様子を見た高井は「頑張ってください、という言葉がいつも以上に心に響いた」と語る。

 撮影は2019/09から後半戦に入る。「鉄道や三木のことを広く知ってもらうため、最後まで丁寧に演じてみんなの心に寄り添える作品にする」と高井。来春の公開へそれぞれの戦いは続く。

(終)

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